長年通い続けた貸農園を手放す――その決断の裏にあったものとは。高齢化が進む社会の中で、農園経営者として感じたリアルな現実とこれからの課題を綴ります。
春の更新時期に訪れる、ひとつの「別れ」
毎年4月が近づくと、貸農園では一年契約の更新時期を迎えます。
区画の継続か、解約か。利用者の皆さんそれぞれが判断をされる大切なタイミングです。
私にとっては、同時に「空き区画」と「新規募集」という現実と向き合う季節でもあります。
ですが今年は、それだけではありませんでした。
貸農園を開設した当初から利用されていた、90代の方が農園を返却されることになったのです。
「もう体がついていかんのや」――その一言の重み
その方は、いつも静かに畑に向かい、丁寧に土を耕し、季節ごとに野菜を育ててこられました。
派手なことはしないけれど、畑にはいつもその方の「生き方」がにじんでいました。
返却の日、ぽつりとこう言われました。
「もうな、体がついていかんのや」
その言葉は、とても穏やかで、でもどこか寂しさを含んでいました。
私は何も言えず、ただ頷くことしかできませんでした。
貸農園は「居場所」だったのではないか
貸農園は単なる畑ではありません。
土に触れ、季節を感じ、人とゆるやかにつながる場所です。
特に高齢の方にとっては、「生活の一部」であり「生きがい」そのものでもあります。
毎朝畑に来ること。
隣の利用者とあいさつを交わすこと。
収穫した野菜を家族に渡すこと。
その一つひとつが、その方の暮らしを支えていたのだと思います。
だからこそ、「農園をやめる」という選択は、単なる契約終了ではありません。
人生の一部を手放す決断だったのだと感じました。
見えてきた「高齢者社会の現実」
今回の出来事をきっかけに、私は強く考えるようになりました。
これからの社会では、同じように「続けたくても続けられない人」が増えていくのではないかと。
高齢者が元気に活動できる期間は、思っている以上に限られています。
そして、その後に訪れるのは「選択肢の減少」です。
・移動が難しくなる
・体力が続かない
・一人での作業が不安になる
こうした理由で、好きだったことを手放さざるを得ない現実があります。
それは農園に限らず、社会全体で起きている問題です。
貸農園オーナーとして感じた使命
私は今回、ただ「一人の利用者が辞めた」とは思えませんでした。
むしろ、これからの農園運営のあり方を問われた気がしています。
これからの貸農園は、単なる「区画貸し」ではなく、
・高齢者でも続けやすい仕組み
・サポート体制の充実
・交流や見守りの場
といった視点が必要になるのではないでしょうか。
例えば、
「軽作業だけでも参加できる日」
「一緒に作業する仕組み」
「送迎やサポートの導入」
そんな取り組みが、これからの農園には求められていると感じています。
それでも、土は人をつなぐ
最後に、その方はこう言って帰られました。
「ここでやれてよかったわ」
その言葉を聞いたとき、私は少し救われた気がしました。
農園は、確かにその方の人生の一部になっていたのだと。
そして、これからも誰かの「居場所」になれる可能性があるのだと。
だからこそ、私はこの場所を守り続けたいと思います。
新しく始める人のためにも。
そして、いつか手放す日が来る人のためにも。
これから貸農園を考えている方へ
もしあなたが「何かを始めたい」と思っているなら、貸農園はとても良い選択です。
年齢は関係ありません。
土に触れることは、想像以上に心と体を整えてくれます。
そして、何より「続けられるうちに始めること」が大切です。
畑は、いつでもそこにあります。
ですが、体と時間には限りがあります。
だからこそ、一歩踏み出してほしいと思います。