※イメージ画像です(AIにより生成)
先日、ある記事を読みました。定年をきっかけに地方へ移住し、庭で家庭菜園を始めた72歳のご夫婦のお話です。最初の数年はトマトやナス、花壇づくりを心から楽しんでいたそうですが、3年目あたりから夏の草刈りの負担が重くのしかかり、奥さまは膝の痛みで通院するようになりました。悩んだ末にたどり着いた結論は「この家では暮らし続けられない」というもので、ご夫婦は便利な立地のマンションへ引っ越すことを決めます。ただ、それは「土いじりをやめる」という選択ではありませんでした。奥さまが娘さんに語った「土いじりは楽しいよ。でも、この家では暮らし続けられないと思ったの」という言葉の通り、新居の近くで貸し農園を借りて、土いじりそのものは続けていくつもりだそうです。
この話は、決して他人事ではありません。私たちの農園でも、長く続けてこられた区画利用者さんが、体力の変化や近年の異常な暑さを理由に、契約を更新するかどうか悩む姿を何度も見てきました。ただ、その多くは「もう畑はいらない」のではなく、「本当はまだ続けたい。でも、今までと同じやり方では難しくなってきた」という声なのです。そして冒頭のご夫婦のように、一戸建てでの庭仕事から、身の丈に合った貸し農園へと「かたちを変えて続ける」というのは、実はとても理にかなった選択だと感じています。
今日は、現場で見てきたこと、そして実際に取り入れている工夫をもとに、高齢になっても土いじりを続けていくためのヒントをお伝えしたいと思います。
まず知っておいていただきたいのは、家庭菜園や貸し農園を手放す高齢者の多くが、菜園そのものを嫌いになったわけではないということです。むしろ「土いじりは楽しい」「収穫の瞬間が生きがい」と口をそろえておっしゃいます。
それでも続けられなくなる理由は、はっきりしています。
体力の変化:草刈りや水やりは、若い頃には気にならなかった作業でも、70代・80代になると腰や膝への負担が一気に増します。真夏の炎天下での数時間の作業は、熱中症のリスクも無視できません。
近年の異常な気候:以前は朝夕の涼しい時間に作業すれば済んでいたものが、ここ数年は朝から気温が高く、作業できる時間帯そのものが短くなっています。夏場の水やりの頻度も増え、体力的な負担はさらに大きくなっています。
一人での作業の限界:配偶者に先立たれたり、片方が体調を崩したりすると、それまで二人で分担していた作業を一人で抱えることになります。これが「もう無理かもしれない」という気持ちにつながるケースを、何度も見てきました。
つまり、多くの場合「やめたい」のではなく「今のやり方のままでは続けられない」というのが実情なのです。であれば、やり方そのものを見直すことで、続けられる道が見えてくるはずです。
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一番シンプルで効果が大きいのが、栽培面積を思い切って縮小することです。長年大きな区画を借りていた方が、体力の変化に合わせて小さな区画へ切り替えるケースが増えています。
「せっかく借りているのだから広く使わないともったいない」という気持ちもわかりますが、管理しきれない広さの畑は、雑草だらけになってしまい、かえって精神的な負担になります。それよりも、自分が無理なく手入れできる範囲に絞ったほうが、結果的に長く楽しく続けられます。
区画を縮小する際は、次のような考え方がおすすめです。
野菜には、手のかかるものとそうでないものがあります。高齢になってからの菜園では、収穫量よりも「手間の少なさ」を基準に品目を選び直すことをおすすめします。
比較的手間が少ない野菜の例としては、ミニトマト、オクラ、シソ、ネギ類などが挙げられます。逆に、病害虫の管理や誘引作業が多いキュウリや、連作障害に気をつかう必要のあるナス科・アブラナ科の野菜は、経験のある方でも体力を使います。
相性の良い植物を一緒に植えることで害虫を防いだり、生育を助け合ったりする「コンパニオンプランツ」という栽培方法も参考になります。例えばゴーヤの近くにネギやマリーゴールドを植えると、害虫予防と成長促進の両方が期待できるとされています。こうした工夫を取り入れると、農薬散布などの手間そのものを減らすことができます。
異常な気候への対策として、作業時間そのものを見直すことも大切です。
真夏の作業は、できる限り早朝(日の出後すぐ)か、日が傾いた夕方に限定しましょう。日中の作業は原則として避け、どうしても必要な場合は日陰を確保できる時間帯を選びます。
また、「毎日行かなければ」というプレッシャーから自分を解放することも重要です。水やりのタイミングをずらしても枯れにくい野菜を選んだり、マルチング(敷きわらや黒マルチで土を覆うこと)で土の乾燥を防いだりすれば、毎日通わなくても畑を維持できます。
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「昔ながらのやり方」にこだわりすぎないことも、長く続けるコツです。
草刈り一つとっても、道具次第で負担は大きく変わります。専用の道具や部品を知っているかどうかで、作業の負担はまったく違ってきます。
そのほかにも、以下のような工夫が効果的です。
道具への投資は、体力を「買い足す」ようなものだと考えると、決して無駄な出費ではありません。
貸し農園ならではのメリットは、同じ悩みを持つ利用者どうしで助け合えることです。一人で黙々と作業を抱え込むのではなく、次のような選択肢も検討してみてください。
自宅の庭での家庭菜園と違い、貸し農園には管理者や他の利用者がいることが多く、「何かあったときに相談できる」という安心感があります。冒頭でご紹介したご夫婦が、一戸建てでの庭仕事から貸し農園へ移ろうとしているのも、こうした安心感を求めてのことかもしれません。
工夫を重ねても、体調や環境によっては「今年は難しい」と感じる年があるかもしれません。そんなときは、区画を一時的に縮小したり、1年だけ休んだりすることも、決して「やめる」ことと同じではありません。
貸し農園は契約期間が1年単位になっていることが多く、その年の体調や気候に合わせて利用の仕方を調整しやすいのも特徴です。「今年は種まきだけにして、収穫は少なめでいい」「今年は花だけ楽しむ」といった柔軟な付き合い方も、長く続けるための立派な戦略です。
高齢になったから家庭菜園や貸し農園をやめる、という選択をする方が増えているのは事実です。ただ、その背景には「本当はまだ続けたいのに、今までと同じやり方では難しい」という葛藤があることがほとんどです。
区画を小さくする、育てる品目を見直す、涼しい時間帯に作業する、道具を活用する、仲間や施設の力を借りる——こうした工夫を一つずつ取り入れることで、無理なく、そして楽しみながら土との付き合いを続けていくことは十分に可能です。一戸建ての庭仕事から貸し農園へ切り替えるというのも、その工夫のひとつの形です。
「土いじりは楽しい」という気持ちを大切にしながら、ご自身の体力や暮らし方に合わせて、かたちを変えて続けていく。それこそが、これからのシニア世代の家庭菜園・貸し農園との、健やかな付き合い方なのではないでしょうか。
Q. 高齢になってから貸し農園を新しく始めても大丈夫ですか?
はい。むしろ、区画の広さを自分の体力に合わせて選べる貸し農園は、一戸建ての庭での家庭菜園より無理なく始めやすい面があります。まずは小さめの区画から検討してみてください。
Q. 体調が不安な年は、契約自体をお休みできますか?
貸し農園は1年単位の契約になっていることが多く、その年の体調に応じて契約の継続・お休みを検討しやすいのが特徴です。詳しくは各農園の運営者にご相談ください。
Q. 一人で作業するのが不安です。
貸し農園には他の利用者や管理者がいることが多く、作業の分担や相談がしやすい環境です。不安な場合は、共用施設が整っている農園を選ぶのもひとつの方法です。